[本]『社会脳』(岡田尊司)(2)
2008年12月30日 (火) | 編集 |
 前回、『社会脳』(岡田尊司)の概略を紹介しましたが、今回はその中から<前頭前皮質>の機能についてまとめます。

 ・前頭前皮質
 ・計画的努力
 ・注意力・集中力
 ・ワーキングメモリー
 ・保続
 ・切り替え能力

・前頭前皮質(前頭前野?):
 この部位は、脳の他の部位から送られていくる様々な情報から状況を認知し、それに基づいてプラニングし、一つの目的に向けて物事を段取り良く行なうというような一連の機能を司る。このような機能を<実行機能>と呼ぶ。より細部の機能に区分けすると以下のようになる。

・<計画的努力>:
 数年単位の時間の中で、未来を予測して計画に従って行動すること。動物にはない、人間に特有の能力。
 前頭葉を損傷・機能低下すると、場当たり的な満足だけを求めてその日暮らしをするようになる。それまで向上心に溢れる努力家で誠実で勤勉だった人が、刹那的な満足を優先して先のことを考えなくなっていく。
 原因の一つとして、様々な依存(薬物、アルコール、ゲームなど)で過剰なドーパミン放出に長期間さらされると、前頭前野が機能低下することになる。

・<注意力・集中力>:
 "不注意な傾向は、新しいものに対する好奇心と関連がある。(中略)クリエイティブな人は、実行機能の面では、しばしば難ありで、そのため実生活では苦労が絶えない。ましてや、その子ども時代は惨憺たるものだ。"
 例えば、ドイツのノーベル賞作家ヘルマン・ヘッセの幼少時は、両親の言いつけに背いては絶えず叱られ、癇癪を起こし、物を壊したり放火さえしていた。一時は施設に預けられたほどだったが、言葉の才能を認められるとギムナジウム受験を薦められ、それに合格することになる。
 しかしヘルマン少年は、一つ一つの能力においては非常に優れたものを持っていたがそれを学校という制約の中で上手く運用し、やりこなす能力に欠けていた。ギムナジウムを中退し、自殺未遂を起こし、14歳のときに精神病院に入院する。
 失意の時期を過ごした後、時計組み立ての機械工の仕事にのめり込んでいくことになる。規則正しい暮らしや、物を作るという目的をもった作業によって自信を回復したと思われる。実行機能と<心の理論>はどちらも前頭前野において、重複し密接に結びついているからである。これは現在では作業療養として知られている。
 自信を取り戻したヘルマン少年は、作家への夢を目指して、機械工を辞めて書店で見習いで働きはじめる。そして3年後、詩集の出版にこぎつける。
 "このように詩人や芸術家や独創的な研究をした科学者の子ども時代を調べると、大抵落ち着きのない、不注意な子どものだったことがわかる。" 他にも、フランス人作家サン=テグジュペリや、アメリカ人映画監督ジョージ・ルーカスも、子ども時代は行動に問題があった。

・<ワーキングメモリー>:
 メモ的な記憶のことで、計算や読書の際に途中までの情報を記憶しておく能力のこと。これが低下すると、話が伝わらなかったりミスが多くなる。会話が噛み合いにくく、対人関係が上手くいかない。
 ワーキングメモリーは映像や言葉を受動的に見聞きしてもあまり強化されない。能動的に関わることで鍛えることができる。

・<保続>:
 それまでの行動を変えられないこと。"前頭前野の機能が低下している人は(中略)間違いとわかっているはずの同じルールで、誤った選択を繰り返してしまい、まだ試していない新しい選び方への切り替えができない。"
 "保続傾向の強い人は、柔軟で臨機応変な対応、判断を必要とする仕事や課題は苦手だが、物事を正確に、徹底的に、最後までやり遂げる点では優れていることもある。"

・<切り替え能力>:
 この機能が低下すると、複数の仕事を処理しようとすると極端に能率が下がる。
 この機能が苦手な人は、前頭前野・前側前部帯状回の活動が上がっていないため、<葛藤>が上手く機能していない。また、強迫性障害や神経症傾向の強い人は、前部帯状回の活動が亢進している。

 また、発達障害(ADHD、アスペルガー症候群)は、実行機能の未発達が推定されている。
 ADHDの人は、落ち着きがなく、注意が散漫になりやすく、衝動的で、持続的に課題に取り組むことだ苦手である。知能が高い子も多いが、実行機能に問題があるため能力を発揮しにくい。<切り替え能力>が入りやすいとも考えられる。
 アスペルガー症候群の人はこだわりが強く視野が狭いために、対人関係でズレを起こしやすい。抽象的な能力は高いのに実行機能が低い。<切り替え能力>が入りにくいとも考えられる。
 このような具体的な病名の診断を受けてなくても、軽度の実行機能の問題が、学業や職業、社会生活に支障を来たしているケースは無数にある。"本当にその子が生きていくのに役立つのは、知識や計算力そのもの以上に、学習や集団での活動を通して身につけた、実行機能や社会性の機能である。"

 以上のように前頭前皮質が発達不十分だったり機能低下すると、<実行機能>を発揮できないために、社会の中で生きていく上で様々な不利益を受けることになる。
 "頭の回転が速く、何でも素早くこなせるのだが、長期的で計画的な努力が必要なことになると、今期が続かず、すぐ投げ出してしまう"
 "知識は豊富で、分析は得意なのだが、複雑な要素がからんだ現実の場面に遭遇すると、大事なことと些末なことの区別ができずに、的外れな対応をしたり、決断ができない"
 "発想が豊かで、問題解決能力も高いのだが、肝心なことが抜けてしまったり、余計な一言を言ってしまって、すべてを台無しにしてしまう"
 
続きは次回。

テーマ:読んだ本。
ジャンル:本・雑誌
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